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XTC Interview: Andy Partridge & Colin Moulding

XTC
(c)Steve Gullick

『ノンサッチ』以来、実に7年ぶりとなった
アルバム『アップル・ヴィーナス VOLUME 1』を
昨年リリースし、ここ日本でも大きな話題をまいたXTC。
“アップル・ヴィーナス”シリーズの完結編とも言える
待望の最新作『ワスプ・スター(アップル・ヴィーナス VOLUME 2)』が
5月17日にリリースされた。 日本での発売日に合わせて
プロモーション来日したXTCの最新インタビューをゲット! 

当日は、J-WAVEの人気番組 『SAPPORO BEER TOKIO HOT 100』への生出演の後、
間髪を入れずのMUSIC Watchの取材だったにもかかわらず、
笑顔で対応してくれたアンディとコリン。
もちろん、 “この6週間、ずっとプロモーションで同じことを聞かれてきたんで、
ナイス・クエスチョンを頼むよ”と 釘を刺すことだけは忘れないアンディだった。

XTC Interview

ライヴ演奏自体、XTCには全然必要ない
アルバムさえ聴いてもらえればそれでいい


今さら言うまでもなくXTCは、非常に英国的気風を感じさせるバンドである。ところが皮肉なことに、彼らの本国イギリスでの人気はここ数年いまひとつである。90年代中盤、ブリットポップが盛り上がった時、その師匠筋としてビートルズやキンクスも再評価されたが、第2世代のXTCまでは波は及んでこなかった。何よりも当時XTCは『ノンサッチ』の後の7年間の休眠状態にあったのだし。むろんアンディ・パートリッジがブラーのアルバムを最後までプロデュースしていたなら、イギリスでの反応は多少は変わっていたかもしれない。まあこんなこと今さら言っても始まらない。去年の『アップル・ヴィーナスVOL.1』と今年の『ワスプ・スター(アップル・ヴィーナスVOL.2)』の2枚連作発表を、XTC復活として誰より歓迎したのは結局のところ日本の聴衆であっただろう。その支持に応える形で、アンディとコリン・モールディングは5月に約1週間もかけてプロモーション来日を行なった。


Andy

 

デイヴが抜けたことによる
マイナスの要素?
それは逆にこっちが質問したいくらいさ

(アンディ)



――『アップル・ヴィーナスVOL.1』と『ワスプ・スター(アップル・ヴィーナスVOL.2)』は本来ワン・セットで発表する予定だったそうですが、それが不可能になったのは、どんな事情からですか。

アンディ・パートリッジ(以下、A) 確かに最初は2枚組のアルバムを作るつもりだった。ところが、アドヴァンスとしてレコード会社からもらった金が予定以上に早く底をついちゃったんだ。おまけにプロデューサーのヘイデン・ベンデルは、いい仕事をする人なんだけど、実にスロウなんだよね。彼は、次にピーター・グリーナウェイとの仕事も控えていたんだ。時間も予算もどんどんつまってくる。で、これはもう、1枚目だけでも先に出そうってことになったわけさ。

コリン・モールディング(以下、C) 後に『アップル・ヴィーナスVOL.1』として出した曲では、オーケストラを雇ったからね。それで金をついたくさん使ってしまったんだ。

A まあ仮に時間も金もたっぷりあったとしても、2枚合わせて21曲を一度に完成させるというのはムリがあったと思う。途中で一度自分達の中のものを出し切る必要があったんだ。

――『アップル・ヴィーナスVOL.1』用に作られていながら、結局『ワスプ・スター』の方に収録された曲はありますか。

C あるよ。「ボーデッド・アップ」と「チャーチ・オブ・ウィメン」がそうだ。結局、バンド・サウンドを付けたけれど、アプローチを変えれば、これはアコースティック・サイドに入っててもおかしくない。

――前作の途中でデイヴ・グレゴリーが抜けたわけですよね。今回まったく2人だけのバンドになっていかがですか? デイヴの不在を特に強く意識することはないですか。

A デイヴってのは、とにかく難しい人間だったね。彼と作業するのはけっこう精神的にも大変なところがあったよ。だから、コリンと2人だけになってまず感じたのは、“う〜ん、なんて気楽なんだろう”ってことさ(笑)。ホッとしたって感じ。すごくのびのびとハッピーにやれたよ。

――彼が抜けたことによるマイナスの要素はないんでしょうか。

A それは逆にこっちが質問したいくらいなんだけど、ニュー・アルバムを聴いてて“ああデイヴがいないとこうなるのか”みたいに思うところってあるのかなあ。僕は彼の脱退をなんのダメージとも思ってはいないんだけど。ギターは僕が弾くし、キーボードはゲストに弾いてもらえばいい。

――ただ順番としては、バンド・サウンドをフィーチャーした『ワスプ・スター』の方が先に作られていたなら、デイヴの脱退はもう少し後になってたんじゃないですか。

C 確かに彼は『アップル・ヴィーナスVOL.1』のレコーディングの時に、これはバンド・サウンドじゃないって言って批判的だったけどね。アンディのソロ・アルバムみたいだって。でも、それはバンドを辞めるための口実だったんじゃないかな。

A うん、『ワスプ・スター』の方に先に取り組んでいたとしても、遅かれ早かれデイヴは辞めていたと思うよ。彼は常にいろんなことに対して不満ばかり言うキャラクターだったんだ。


Colin and Andy

 

いろんな曲が
みんなそれなりのマジックを
隠し持ってるってことさ

(アンディ)



――現在のXTCにおけるアンディとコリンの創作活動は、かなり自己独立性の強いものだと聞いていますが、どの程度までひとりだけで曲を仕上げてしまうんですか。

A そうだなあ、相手に対して曲を見せる時には、もう9割方それは完成しているね。曲のベーシックな部分は、相手の楽器のラインまで含めてほぼ完全にひとりでデモ・テープ作りまでやってしまう。あとは細かいアレンジを相談するくらいかな。

――昔ながらのバンドの音の作り方、つまりメンバー全員が顔を揃えてジャム・セッション的なところから1曲仕上げていくみたいな方法にはもう全然興味はありませんか。

A まずそんなやり方が現実にいろんなバンドで行なわれてきたかどうか疑問だよ。確かにXTCも最初のアルバム『ホワイト・ミュージック』の時は、みんな集まって“せ〜の”って感じでやってた。でも、それはお互いがミュージシャンとしてまだ若く無知だったからだ。そのやり方しか知らなかったんだね。例えばレッド・ツェッペリンだって、実際によく聴いてみればいろんな編集行程を踏んで曲が出来上がっているのがわかる。いろんな素材は別 々に録られているんだ。キリテ・カナワって人がいるじゃない、すごい天才的シンガーだって言われてるけど、あの人にしてもさ、実際に一緒にやったヘイデン・ベンデルによれば、レコーディングの時はいっぱいテイクを録りためといてコンピューターでいい部分をセレクトしてるらしいもの。音程も機械的に調節してね。

――聴く側としては、ちょっと幻想が壊れてしまう話ですね。

A まあ音楽ってのはそんな風に作られてるものなんだ。ビートルズの曲だって『ホワイト・アルバム』の冒頭の3曲はリンゴ・スターがドラムを叩いていない。いろんな曲がみんなそれなりのマジックを隠し持ってるってことさ。


Colin

 

嫌いなことは
やりたくないということ(笑)。
XTCは19年間そうやって来たんだから、これからも同じさ
(コリン)



――ところでXTCは、アンディの“ステージ恐怖症”のせいで、もう20年近くライヴ・ツアーをやってませんよね。その病気は今も続いているんですか。例えば小規模なステージでちょっと試しに演奏してみたりとかは?

A 試してみるなんてことは特にしないね。というか、もうライヴ演奏自体がXTCには全然必要ないように思えるんだ。ライヴをやってるバンド連中にも言ってやりたいよ、もうそんなの止めればって(笑)。なんでやってるんだろう。アルバムさえ聴いてもらえれば僕はいいよ。

――ライヴをやってた時に、聴衆との一体感とか高揚感を得られることは全然なかったんですか。

A エキサイトメントはあったよ。ただし、それは常に激しい不安や緊張を伴なうものだった。表現者自身がライヴをエンタテインメントとして楽しめるのならいいけど僕達はそうじゃない。ステージが終わると、ただただ何かが失われていく気がしただけだ。

C 若い時はツアーで外国へ行って、知らない人に会ったり、酒を飲む楽しみはあったけどね。今はもっと静かに過ごしてる方がいいよ。

――『ワスプ・スター』の曲は、ライヴでの再現も十分可能なものばかりですけれど、ファンとしてはそこに期待しない方がいいわけですね。

C そう。要は、嫌いなことはやりたくないということ(笑)。XTCは19年間そうやって来たんだから、これからも同じさ。

FM TOKIO HOT 100

▲FM番組『TOKIO HOT 100』に生出演したXTCの2人

    取材&文:米田 実
    通訳:前 むつみ
    協力:J-WAVE、ポニーキャニオン


Wasp Star

『ワスプ・スター(アップル・ヴィーナス VOLUME 2)』 XTC
[ポニーキャニオン/PCCY-01449/¥2,548/発売中]

01.プレイグラウンド
02.ステューピッドリー・ハッピー
03.イン・アナザー・ライフ
04.マイ・ブラウン・ギター
05.ボーデッド・アップ
06.アイム・ザ・マン・フー・マーダード・ラヴ
07.ウィア・オール・ライト
08.スタンディング・イン・フォー・ジョー
09.ウーンデッド・ホース
10.ユー・アンド・ザ・クラウズ・ウィル・スティル・ビー・ビューティフル
11.チャーチ・オブ・ウィメン
12.ザ・ホィール・アンド・ザ・メイポール

ギター・バンドとしての彼らの魅力が久しぶりにたっぷり味わえるアルバム

XTCの新作『ワスプ・スター』は、ギター・バンドとしての彼らの魅力が久しぶりにたっぷり味わえるアルバムだ。ここに、生楽器やストリングスをフィーチャーした、去年の『アップル・ヴィーナス VOL.1』をプラスして聴くと、今のXTCの全体像はより正しく把握できる(もともとこの2枚はそういう意図で作られた連作的アルバムなのだ)。ただ、今さらこんなことを言っても仕方ないが、バンド・サウンドを重視した『ワスプ・スター』の方が先に手がけられていたなら、デイヴ・グレゴリーの脱退はもう少し後になっていたのかもしれない。残った2人――アンディ・パートリッジとコリン・モールディングの作曲数の比は9対3。アンディが作る、XTC定番と言える曲がりくねったメロディ・ラインの曲と、コリンによるムード・チェンジ的な曲のバランスがとても良い。クリアなエレクトリック・ギターのリフが本当に久々に心地良い「プレイグラウンド」、ストーンズを意識したリズム・スタイルの「ストゥピッドリー・ハッピー」、クリーム時代のジャック・ブルースが書きそうな「イン・アナザー・ライフ」、オールディーズ・パロディっぽい「ウンデッド・ホース」、英国趣味丸出しの「ザ・ホィール・アンド・ザ・メイポール」等々、ポップ職人としての彼らの腕が全然落ちていないことがわかる。現実に恋愛の渦中にあるアンディが、そんな自分を“おバカさんみたいに幸せ”(前出「ストゥピッドリー・ハッピー」)と皮肉っぽく笑ってみせるのも、いかにもという感じで微笑ましい。
[米田 実]

Transistor Blast

『トランジスター・ブラスト
〜ザ・ベスト・オブ・ザ・BBCセッションズ〜』
[ポニーキャニオン/PCCY-01309/¥6,930]

英BBC出演時のスタジオ・ライヴやセッション音源から厳選されたCD4枚組のボックス・セット。DISC-1とDISC-2は77〜89年に収録されたBBCセッション音源25曲(うち未発表曲8曲)を収録。DISC-3は78年3月と翌79年1月に行なわれたロンドンの“Paris Theatre”でのライヴ(すべて未発表)、そしてDISC-4は80年12月にロンドンの“Hammersmith Palais”でのライヴを収録している。

   
Apple Venus Vol. 1

『アップル・ヴィーナス VOLUME 1』
[ポニーキャニオン/PCCY-01341/¥2,548]

前作『ノンサッチ』以来、実に7年ぶりに発表された、XTCの復活を告げる新作。制作の途中でデイヴ・グレゴリーが脱退し、XTCはアンディとコリンの2人だけとなる。当初は2枚組としてリリースされるはずだったが、結局、オーケストラをフィーチャーした“アコースティック・サイド”の本作と、バンド・サインドによる“エレクトリック・サイド”の『ワスプ・スター(アップル・ヴィーナス VOL.2)』の2枚連作となった。全11曲入り。

   
Homespun

『ホームスパン』
[ポニーキャニオン/PCCY-01415/¥2,415]

復活作『アップル・ヴィーナス VOL.1』に収録されている楽曲のホーム・デモ・トラック集。しかし、各デモは、デモ・トラックとは到底思えないような完成度を持っている。ホーム・デモ集というよりは、『アップル・ヴィーナス VOL.1』の“オルタナティヴ・ヴァージョン”とでも呼べるような興味深い作品集だ。初回限定盤のみ、アンディ&コリンによる楽曲完成までのエピソードを収録したスペシャルCD付き。


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